「チベット展」を見て
「チベット展」を見て 抗議続く中での閉幕
それは異様な光景に映った。上野の森美術館で「聖地チベットーポタラ宮と天空の至宝」展が開かれている。その入口前で、「草の根支援者」による抗議が続いていたのだ。主催者の朝日新聞、TBSにファックスで抗議しようと呼びかけている。その理由は?
この展示会は2004年からアメリカとヨーロッパを巡回し、昨年から日本各地を巡りこの1月11日の上野で終えたのである。ともあれ主催者が要請に対してコメントを発表するという対応はなかった。
抗議している人たちのポイント発言は「展示会での仏像、書物、経典は、中国共産党政府が不法な侵略で盗んだモノ。しかも、チベット侵略の歴史やダライ・ラマ14世については全く触れていない。中国政府によるチベット支配の正当性を主張するための展覧会に過ぎない」というのだ。
ここ50年の間、チベット人は迫害を受け追放されてきた。チベット亡命政府によると、1949年のチベット占領から6000もの仏教寺院が破壊され、僧侶らが大量虐殺され、14世ダライ・ラマ法王は代々の居城であったポタラ宮を去り、インドへ亡命、すでに50年が経った。チベットの現状は悲惨を極め、数千人が拘束、拷問され死刑の宣告者もいる。
1950年、中国がチベットに侵攻し、抗中独立運動(チベット蜂起)によってダライ・ラマ14世がインドに脱出(59年)、チベット亡命政府が生まれた。チベット仏教はインドの大乗仏教直系で、チベット語で書かれた経典は仏教研究の貴重な文献とも言われる。
「大乗仏教入門」(80年邦訳)を、日本の菅沼晃(東洋大学名誉教授)が訳したことで広く普及した。チベットの置かれた政治的状況から可能な限り多くの支援者が出た。強者に媚び、弱者を泣かす中国は暴力団に等しい。
展示会の展示作品を見ていても、とても奇妙な気持ちにさせられ、中国の政治的目論見はわかるものの、チベットという国がどのような国家的犯罪を犯したものか、中国の覇権主義を忌わしく感じるばかりだった。
チベット自治区では、近年、公用語である中国語の習得を拒否する若者が増加し、結果的に失業率が上昇するといった新たな問題も生み出しているという。約200万人ともいわれる亡命チベット人が故国に帰れるのはいつのことだろうか。
今ではチベットの国歌や国旗は歌われることはない。1960年、ダライ・ラマの教師が亡命先で書いた詞だという。
「輪廻 涅槃における平和と幸福への あらゆる願いの宝蔵にして 願いを意のままに叶えることができる 宝石のごとき仏陀の教えの光明を輝かせよう」。チベット国歌はこういう文言で始まる。
中途は略すとして最後は次のように結ばれる。「チベットの仏教と衆生の吉兆なる光明の輝きが邪悪な暗闇との戦いに勝利しますように」。失われた国の歌が戻るのはいつになるのであろうか。
1月27日付けの新聞報道によると、中国当局は1年3カ月ぶりにダライ・ラマ側と非公式協議を開始したとある。中国側は会見で分離独立活動の放棄などを求める立場を強調している。しかしダライ・ラマ側はチベットの独立ではなく「高度な自治」を求めている。中国は、オバマ米大統領が今月21日から訪米するダライ・ラマと会談することを警戒しており、対話ムードを演出するための今回の協議でしかなく、実質的な進展はないとのことだ。 ( 2010/02/01 )
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