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 藤田嗣治の大作に出会う
壁画「秋田の行事」
藤田嗣治の大作に出会う
秋田市へ出掛けたついでに美術館をひとつのぞいて見た。二度目である。そこにはフジタの作品がある。
「秋田の行事」と題された油彩画は横幅が36・5�叩�高さ20・5�辰梁臺媛茵Ｌ世襪�おおらかな色彩である。藤田嗣治が1937年、平野家の土蔵の中に描いたもの。制作後30年目にして移設され公開された。大きさで世界最大級という。
当時の秋田市の中心街・外町(とまち)にかかわる年中行事とまつり、日常風景が描かれている。そこには江戸時代から引き継がれてきた人々のつながりや精神的なようすまで読み取ることができる。秋田人のリズムが伝わってくるのだ。素朴でいながら、豊潤な秋田の風土と秋祭り、梵天、竿灯を静動対照的に描きわけている。一つの画面に当時の秋田風俗を描き尽くしているのだからすごい。しかも緻密な画面構成である。これをわずか15日間で完成した。
フジタは「この記録は永遠に破れない」と豪語し健筆を誇った。大絵は縦4箇所にきれめある。大きすぎたためだ。人物は老若男女75人、犬2匹、馬2頭。香ろ木橋、かんとう 七夕祭 三吉神社 秋田音頭画といった文字が画面に見える。
サインもある。「為秋田、平野政吉、つぐじ1937昭和12年自2月2１日至３月7日 百七十四時間完成」。
その折のスケッチもガラスケースに収められている。実にラフなものに感じる。屋根の色などはざあっーと線を引いて赤青黄色と色指定があるばかり。でも出来上がりの造形力はきちんとしている。
会場はさながらこの一枚の絵を飾るためだけに建てられたようなものだ。他の壁面の作品はいかな名画であっても太刀打ちはできそうにない。上階に上がって周回しても巨大絵がチラつき落ち着かない。フジタが持ち帰った宗教画が飾られフジタが佳いと考えて入手したことはわかるが、これだって違和感がある。フジタ作品で全館を埋め尽くして、欲しいものだ。
「平野政吉美術館」は秋田市に生まれた平野政吉(１８９５−１９８９)が、彼の収集した美術品を寄贈して、１９６７年５月５日、秋田市に開館した。この翌年１月29日レオナール・フジタはスイスのチューリッヒで病気のため81歳で亡くなる。
この美術館には１９３０年代の藤田嗣治作品と西欧絵画が常設展示され、企画展も随時行なわれている。収容されている作品は１９３１年から１０４０年までの10年間の作品。「眠れる女」「室内の女二人」「町芸人」「カーニバルの後」「チンドンヤ」｢力士｣「北平の力士」「五人女」「自画像」「我が画室」「１９００年」「客人(糸満)」「私の画室」「踊子」「台所」。
これらの作品が描かれたのは藤田が43歳、３人目の妻ユキと別れ、10月４番目の妻マドレーヌとパリを離れ、中南米をまわり、昭和８年11月帰国した。48歳だった。昭和９年、戸塚(現在の高田馬場)にアトリエを建て、日本で精力的に活動。この頃平野平吉と知り合った。
フジタは昭和11年３月、秋田に入った。６月にはマドレーヌが急死。こういう中で、３月秋田市の平野政吉の米蔵で大壁画「秋田の行事」は描かれたことになる。翌年、５人目の妻、堀内君代と結婚。その翌年４月渡仏、９月には第２次世界大戦が勃発し翌年７月帰国した。45歳から53歳まで９年間は、彼にとって公私ともに、最も名声を獲得すると同時に力の入った仕事を発表できた時期に当たる。
秋田にとって藤田との出会いは、大きな美術財産になったのである。平野政吉の目効きに瞠目する。
( 2009/12/01 )
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