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  メアリー・ブレア展を見る

メアリー・ブレア展を見る
「小さな家」の顛末は

「小さな家」の話がある雑誌に載っていた。その家は大都会の開発につぶされそうになったのだが危機一髪で田舎へ移築される。そこで新しい新婚夫婦の家になるというハッピーエンドが待っているお話。そのコンセプトアートが東京都現代美術館で10月4日まで開かれた。「メアリー・ブレア展」である。

 彼女の日本での本格デビューは2年前。「ウォルトディズニー展」が開かれた際、なかで、彼女の絵が特別に人気を集めた。それで今回の凱旋展覧になったのである。

彼女は1908年、ロサンゼルスに生まれた。大学ではファインアートを専攻した。ロサンゼルスのシュイナード美術学院に入学、将来の夫となるリー・ブレアと出会い、卒業後結婚する。28歳の時ウォルト・ディズニー・スタジオに入社、42歳の時、子どもとの時間を持つために退社した。その前年にカラー・アンド・スタイリングを務めたのが「小さな家」であった。

 メアリー・ブレアは優れたデザイナーであり、カラー・スタイリストであったことは間違いない。色の使い方のバランスが良く、非凡な色彩センスに魅了される。影の中の色さえ明るく鮮やかなのだ。彼女はいつどこでこんな技を自家薬籠中ものとしたのだろうか。意識的な物の見方、感じ方、考え方は天性のものであったに違いない。 殊にアニメーション作品に力を発揮した。スタッフと協力して作業を進めた分、お互いに刺激を与え合い、それで実力以上の力を発揮する芸術家だったのだろう。

有名なのは彼女がカラーとスタイリングを担当した東京ディズニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」。個人として完成する絵本や広告の仕事よりも優れたものがある。

アニメ隆盛の今、彼女の生き様は、若い人たちにはあこがれに映るのではないか。今の時代とは違う男性社会での苦労心労、夫と同じ職業を選んだことでの摩擦、遠距離を車で通う生活。郊外の家に住まうという理想もいいことばかりではなかっただろう。妻として母親としての日常生活は楽しくもあったろうが、一方では煩わしさに悩んだことも多かったに違いない。彼女の写真にはほとんど笑顔がないというのは気になるところだ。

来場者はほとんど若い女性たちといってもいい。彼女たちはシンデレラ物語といったファンタジックな空想の世界にあこがれやすい。夫となる人はやさしくてイケメンであるのが理想だ。ある場合、女性は男性よりもイケメン配偶者にこだわるものだ。来場者の唇から「ステキなだんなさまねェ」との声を何度も聞いた。

展示会の最後のほうに晩年に描いた絵が見るものを驚かせる。船、窓、猫、そして裸婦。戸惑いは免れない。本当は画家になりたかった彼女が、それを手に入れたというのに、ファンの期待を裏切るような絵を描いたのはなぜなのだろうか。

インスピレーションにあふれ過ぎた謎の絵はファンであっても心を共有できない。感情をかきたてる力強さを持つ彼女の絵ではあるけれど、それがアンサンブルとしての魔力を失えば、何が何だかわからなくなる。彼女の神経に苛立ちがあって絵の主題も画風も変わってしまったのであるか。影の部分、生活の背後ににこそメアリーの人にみせることのなかった苦悩が反映されているのではないか。

それでも今の若い人にとって彼女の作品に惹かれる理由はとてもわかる。それは夢みる力が画面からにおいたっているからである。亡くなったのは1978年、カルフォルニア州サンタ・クルスである。脳溢血だった。享年67歳。

( 2009/10/15 )

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