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 奥村清明著[白神山地ものがたり]
奥村清明著[白神山地ものがたり]
世界自然遺産のすべてを１冊に
白神山地がいまのようなブナ林になったのはおよそ8000年前頃に遡る。縄文時代が始まる頃にあたる。世界遺産に指定されている1万6791�任箸い�広さは、東京の山手線内の面積の、およそ2倍強。地域はコア(核心)地域とバッフアー(緩衝)地域に分けられる。これらの周囲を、またぐるりとブナ林が広がる。一般の人々が利用できる地域だ。
世界自然遺産に指定された後、観光客が激増した。いまや、北東北の観光スポットは十和田湖と白神山地になったといわれるほど。青森県西目屋村の人口は今年８月現在で１５８６人、そこに年間５２万９７１人の観光客が訪れる(村役場発表)。人が入り込むことで汚染が広がり生態系も変わってしまった。
鳥の姿は減り、イワナは激減、ブナの巨木は枯れ、山の動植物や地元民が被害を受けてしまう状態になった。観光客を受け入れる、きちんとしたルールをつくり、ブナ原生林を厳重に保護・保全するための知恵が必要だ。場所によっては入山禁止措置なども検討されるべきだろう。そのように著者の奥村さんは提案する。
なぜならそこにはジーン・プール(遺伝子資源)としてのブナ原生林の存在があり、そこまで考えてこそ白神であるためだ。
1990年5月、秋田市で「白神山地のブナ原生林を守る会」が設立された。事務局長に就いたのが奥村清明さん。8000年以上にわたって、生存競争を続けてきた白神山地の微生物の生存能力は高い。だが、入山者の増加は、ジーン・プールを壊してしまう怖れがある。
急ぎ大規模なサンプリングと、サンプルの凍結保存処理が必要だと訴える。将来は、化粧品、果実酒、漬け物、みそ、醤油、コンポストなどへの利用が考えられる。残された貴重な遺産を、厳重に保護・保全し、未来の世代に、残していくのは、今に生きる者の責務だと著者は結んでいる。
白神山地は、1年のうち半年は深い雪の中にある。冬のブナ林も美しい、季節によって、表情をガラリと変えるため四季折々のブナ林に足を運ぶことでより理解も深まるに違いない。ブナの森は癒やしの森だ。数時間歩くだけで身をやさしく包み込んで、形容のできない安心感を得ることができるという。世界自然遺産のすべてをこの一冊にコンパクトにまとめた本である。無明舎出版
本体９００＋税、５版／８６頁 電話０１８−８３２−５６８０
( 2009/10/01 )
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