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世のうちそと

 太宰治100年

太宰100年の光と影

太宰治の「人間失格」が古本屋の均一箱で一冊百円で売られていた。今年はこの作家の生誕百年である。
太宰が晩年を過ごした三鷹市では多くの東京みやげ関連グッズが販売されるなど人気だ。

太宰の故郷の青森や五所川原のある津軽ではなおのこと太宰で盛り上がっている。作家の生きざま悲劇的であればあるほど死後の作品も輝きを増し、作家イメージもついて回るのか。太宰の場合はことに強烈なオーラを発している。

五所川原駅から津軽鉄道で25分ほどで金木駅に着く。若い女性アテンダントが乗り込んできて「こんなに人が乗ったのははじめて」。「酒はうまいし、ねえちゃんはきれいだ」と自画自賛。と、くれば津軽は天国に近い土地ということだ。

昭和19年春、太宰治は津軽半島をおよそ3週間かけて一周した。金木村(現在の五所川原市)のことを作品「津軽」の中で「人口5、6千の、これという特徴もないが、どこやら都会ふうにちょっと気取った町である。善く言えば、水のように淡白であり、悪く言えば、底の浅い見栄坊のまち」と記した。

津軽の歴史はあまり人に知られていない。陸奥も青森県も津軽も同じと思っている。津軽の歴史は、はっきりしないからだ。「ただ、この北端の国は、他国と戦い負けたことがない。服従という観念に欠ける。他国も相手にせず勝手にふるまわせていた」と書く。安東氏一族の内訌は津軽の歴史に特筆すべき騒擾、鎌倉時代以後、甲州武田氏の一族南部氏が移り住み、吉野、室町時代を経て、秀吉の天下統一に至るまで、津軽は南部と争い、安東氏にかわり津軽氏が、津軽一国を安堵し、12代つづいて、明治維新を迎えた。

津軽というのは眇たる存在。青森県の二本海寄りの半島のひとつが津軽である。

津軽の旅行は5,6月に限る。梅桃桜林檎梨李が一度に花が咲く。軽人は心のひびを忘れない種族である。

太宰は実際にはどんな人間だったのだろうか、と想像してみる。男女両方の視点からトータルにみて、女性のハートをくすぐる人物だ。

作家には寿命は2度ある。死後の作品の寿命と早すぎた死。それは想像力をかきたてる。過去ではなく未来が死ぬのであるから。

彼の死や努力はいまも冗談扱いにされたところがある。いかにも傷つきそうな太宰の微笑み。傷つきやすい心の脆さ。本好きの心をとらえた作品は、情死をもって完結した。

私たちの脳裏にあらわれては消え、消えてはまたあらわれることが多いのも作品とその陰にある生きざまが奇妙に符合しているからである。

( 2009/09/15 )

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