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 20年ぶりのゴーギャン展
孤独な放浪の画家の末路は
20年ぶりのゴーギャン展
ゴーギャンは生と死、文明と未開といった根源的な主題で感情や思索を造形的に表現した画家である。その精神的な遺言は今世紀になってもますますもって色褪せてはいない。1987年開催から、20年ぶりの日本での「ゴーギャン展」は7月3日から9月23日まで東京国立近代美術館で開かれた。
日本初公開の大作「我々はどこからきたのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」(139・1×374・6�僉▲椒好肇麋�術館)見たさに多くの人が押しかけていた。今回出品された53作品の内、ボストン美術館所蔵15点、岐阜県美術館16点とこの2館だけで過半数を占めた。
他に海外からの出品、日本各地からの出品を見て、内外問わず人気のある画家であることがわかる。こんなに有名なのに貧困と孤独の内に異国で客死した。
第1章「野生の解放」から始まる。「オスニー村の入口」(ボストン美術館)は、荷馬車や人が行き交うのどかな農村風景を描いている。空は暮れなずみ、背景の崖や緑の中、道は明るい。空よりも明るい道がおもしろい。これは写実だろうか。そのような疑問が生じたほどである。しかも最初からゴーギャンタッチだった。塗り絵のような、版画浮世絵のような平面的な絵である。色使いが素敵である。
株式仲買人として安定した生活をしていた彼はデンマーク女性と結婚し幸せであろう家庭生活を送っていた。それが34歳にして画家の道へ踏み出してしまった。孤独な放浪の始まりである。
彼は観念的な画家だ。心の中のイメージや感情を、単純化した形態と色彩の調和によって描き出す独自のスタイルを確立した。第1章では、「自らの内なる『野性』とブルターニュ地方の濃密な風土が『共振』して生まれた」と解説されていた。あんなに色がきれいなものか、現地を知らないものにはひきつけられる。
第2章は「タヒチへ」。野蛮人の感性を持つゴーギャンは、南洋の島、自国フランスの植民地であったタヒチへ向かう。そして「原初の人類に備わる生命力や地上に生きるものの苦悩」をタヒチ女性の黄金色の肉体を借りて描き出したのである。
第3章は「漂泊のさだめ」と題されていた。1893年、パリに戻ったものの作品は理解されることはなかった。1895年、再びタヒチへ渡る。健康と貧困、さらには娘アリーヌの死も知らされ絶望感はつよまる。これまでの作品を群像表現として一枚に凝縮して見せたのが、件の大作である。
絵のことよりも、彼がこの時に友人に送った手紙は悲痛で胸に迫るものがある。
「私は12月に死ぬつもりだった。で、死ぬ前に、たえず念頭にあった大作を描こうと思った。まるひと月の間、昼も夜も、私はこれまでにない仕事をした」。モンフレー宛て書簡。1898年2月。
「私は、この作品がこれまで描いたすべてのものよりすぐれているばかりか、今後これよりすぐれているものも、これと同様のものも、決して描くことはできまいと信じている。私は死を前にして全精力を傾け、ひどい悪条件に苦しみながら、情熱をこめてこれを描いた。その上、訂正の必要がないくらいビジョンがはっきりしていたので、早描きのあとは消え、絵に生命が漲ったのだ」。1898年2月。
「私は、もはや言葉を絵で表現しません。私は文学的な手段に少しも頼らず、できるだけ単純な技法を用いて、暗示的な構図の中に、私の夢を表現しようとしたのです」。フォンテナス宛て書簡。1899年3月。
いずれも「タヒチからの手紙」昭森社 1980年版にある文章である。
マルキーズ島に渡りそこで人生の幕を降ろすのである。株式仲買人の人生を続けるよりは、よほどいい人生だったと思うが。
( 2009/09/01 )
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