石川賢治の「月光浴写真展」
石川賢治の「月光浴写真展」
大地と月と宇宙はひとつながり
月は神秘的な存在だ。その満ち欠けは原初のそのときから五穀豊穣と子孫繁栄を懸けてより本能的なバイオリズムの発露を通わせるものがあったであろう。冴え渡る空間にぽっかりと浮かぶ月をひとり眺めるとき、どのような想いがよぎるものであろうか。おそらく宇宙への畏怖の念を抱くしかないのではないか。
そんなことを考えると、まず石川賢治の月光浴写真展の情景が浮かんでくる。妖しく、神々しく、そしてロマンチックな月に目を奪われ耳を澄ませてしまっている。2006年8月17日から9月5日まで、東京駅近くの大丸ミュジーアで開かれた。会場内は照明を落とした疑似体験場の趣、音楽は原始的なものが静かに流れており、お香のにおいも鼻についた。オーストラリア・マダガスカル・ガラパゴスなどで撮影した月光写真120点ほどが展示されていた。
宇宙の神秘を写し出す満月の旅を活写したもので、サイパン島の断崖にぶつかる強い波の上で満月が鈍い光を放っている。
この写真は満月の光のみで撮影したもので、太陽光の46万5000分の1でしかない。月光写真、神秘的な深いブルーは「成層圏の青」である。オーストラリアの宇宙的な広がりを持った地、宇宙を撮りたいと言う思いを捉えたベストショットである。
石川賢治さんは、1945年、福岡市生まれ、1984年(昭和59年)、ハワイ・カウワイ島での幻想的幽玄美しく懐かしい写真を世に問うて以来、深く静かな夜気、満月の旅「山の上から水が流れるように海の底まで地球に降り注ぐ月の光をおいかけ」はじめたのである。昼間の明るい同じショットをなぜ撮らなかったのか。と素人は残念がるが、夜の景色はまったく別の貌が出現するのである。
彼はあいさつの中で月光写真に出会ってから、海の底から山の上まで20年追い続け、それを一区切りとした。そして初めて出会った時の宇宙感覚の衝撃を映像に刻むべく新しいスタートを切った。
満月の夜の地表は想像する以上に明るく、足元の花の色まではっきりわかる、見上げれば満天の星と銀河。大地と宇宙はひとつながりになる。2002年より360度の視界を求めてオーストラリアに通いつめ、モノにしたのが新境地「天地水、月光浴」(新潮社刊)である。
撮影地を紹介する。 「グレート・オーシャン・ロード」はビクトリア州の州都メルボルンの南西トーキーからアランスフォードまで全長約250キロ。 「デビルズ・マーブル」ノーザン・テリトリーのアリススプリングスの北400キロ。 「ランセリン砂丘」は西オーストラリア州ピナクルズの南、 「フレーザー島」はクィーンズランド州の州都ブリスベンの北200キロ、 「ピナクルズ」西オーストラリア州の州都パースの北約245キロ、以上の五か所でオーストラリア州の全州を網羅したといってよい。
荒野の奇岩は天を指し示し、浜の白砂は輝いている、湖は満点の星を映している、満月の光に照らし出された原始の大地は、この大陸のもうひとつの表情をみせてくれる。それは中国墨絵の風景であり、写実そのものの世界。長時間露光だと波が雲海のようにも見える。満月の夜は祝祭的な時間なのだ。地球上のあらゆる生命活動に影響を与える月。セレーネの神秘に夢を託す。じつに豊穣な時間をも満喫できることうけあいだ。 ( 2009/07/01 )
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