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 中川一政美術館にて
中川一政美術館にて
生きた自然から感動を得る
中川一政美術館は真鶴半島自然公園の樹林に包まれた、落ち着いた雰囲気の中にある。平成2年に「第15回吉田五十八賞」（建築設計）を受賞し、平成10年には「公共建築百選」（建設省）にも選ばれている。開館し21年目だというが、実に気持ち良く作品を鑑賞できる美術館である。
美術館に隣接して「お林展望公園」となっており、ここに画伯のアトリエが生前のままに復元公開されている。アトリエ内の様子が画伯の生活を反映しているようで興味深く拝見した。本棚には「新万葉集」「 会津八一集」「 鈴木大拙集」「正法眼蔵」 「坂本繁二郎」といった著者の背表紙が見える。「 長生きの秘訣」が記された一文もある。他には、鏡台、煙突つきストーブ、水道施設に画架台が 2台、電気カーペット、片隅に額縁が数十ある。日本洋画壇の重鎮、文化勲章受章者の絵をかく部屋は簡素で味気ないものだった。
処女作 「酒蔵」1914年、21歳の時に描いた作品。今回も出品されていた。岸田劉生に認められ、画家を志すことになった作品である。この入選作を見ていると、生涯を貫く変わらぬ原点を見たような気がした。
画伯は1893年（明治26年）2月14日東京・本郷に生まれた。
油彩画、日本画、書、篆刻、陶芸、装丁などその創作活動は自由奔放であり多方面にわたる。また、屈託のない文章で知られ、詩・随筆・紀行文などの著書も多い。ちなみに「画の見方」という一文には、画はきゅうくつに考えないで見る事、きめずに見る事、わかる程度で素直に見て行く事、理屈ぜめにして見てはならぬ事、とある。
そうした態度で広く深く鑑賞して行けば見方が鍛えられるのだ。そして「いつまで見ていてもよい絵というのは、自分の心が成長して行ってもまだ奥底のわからぬ絵のことです。自分にとけぬ謎のある絵です」。なるほど、「そう言うことかと」納得させられた。
1949年、56歳の時真鶴にアトリエを構えた。温泉などはないが、海と山と空がある。「日本一広いアトリエ」と自慢していた。1989年、96歳の時この美術館は建設された。内部に入ってみると作品を鑑賞するのに雰囲気が良く、とてもやすらぐ。落ち着いて時間を過ごせる空間になっている。展示室は5つあり、順次たどっていける。広さも80平方�団�度なので、こじんまりとしていかにも個人の美術館と言うにふさわしい。
中川一政と言えば「薔薇」や「向日葵」「金魚」を描いた画家と思う人が多い。が、花の絵は晩年になってからで、それ以前は日本各地を旅して描いた。海外にも生涯に7度渡欧した。活動的な画家であった。
この春にの展示は文芸作品「石田三成」に描いた挿し絵も出ていた。その三成を「純粋情熱 のまま駆け抜ける相、そこには人生の敗残が隠されている。人生に 困難危険はつきもの」と看過している。
海外では「トレド風景」を描いたものが印象に残った。でも同じ写生 ぶりで自然を 事物に即して描いた。目指したものはきれいで整った景色ではない。画家はアトリエで腰をかけていては部分はわかるが大局はわからない。出かけて行ってそこで対峙することで生きている景色からの感動でなければならなかったのであろう。
( 2009/05/15 )
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