アンドリュー・ワイエスを悼む
アンドリュー・ワイエスを悼む ひそかで濃密な静かさに満ちた風景世界
AP通信の伝えるところによると、米国リアリズム絵画の巨匠と言われるアンドリュー・ワイエスさんが1月16日、東部ペンシルベニア州ターズフォードの自宅で死去した、という。91歳、高齢だからさほど驚きはしないものの、年末に渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで「アンドリュー・ワイエスーー創造への道程(みち)」展を観ただけに感慨を一入だった11月8日から12月23日までで75000人の観覧客があったというから大変な人気である。現在も名古屋市の愛知県美術館で開かれている。
1917年、チャズフォード生まれ。挿絵画家だった父の手ほどきで9歳から水彩を描き始めた。20歳の時、初個展が大成功。以後テンペラ画にも取り組むようになった。生涯を通じ、故郷と夏の別邸がある北部メーン州の風景、親しい人々を描いた。代表作に「クリスティーナの世界」(ニューヨーク近代美術館蔵、1948年)などがある。
1963年に米大統領自由勲章を受章。ジョン・F・ケネディによる授与が決定していたが、実際は、ケネディ大統領の死後、ジョンソン大統領から贈られたというエピソードがある。
2007年には全米国民芸術勲章を受章。この時はホワイトハウスでブッシュ大統領から直接授与された。この時は「父親のブッシュの時代から親しくしていて、素晴らしい家族だ」と感激一入だったという。
90歳になってからも現役だった。昨夏91歳の誕生日を迎えたが、テンペラを2点完成させたという。死因は不明とのことだが、就寝中に家族にみとられた、というから大往生だろう。展示会のメッセージには「日本の皆様から長年にわたり私の作品に関心を寄せていただいていることに、大変深い感動を覚えています。皆様の温かい愛情がこの先も続くことを願っています」とある。
彼の作品をみているとその卓越した観察力に驚嘆する。「眼の系譜」の遺伝子が連綿と続いている。ワイエスの父親は有名な挿絵画家、自分の息子(次男)も画家である。三代にわたる絵描き一家なのである。
ワイエスは大自然の中の感動を抽象化するテクニックに優れている。
アメリカの郷愁と詩情を目に見えるノスタルジアとして描くことに成功している。至高の沈黙は徹底的にリアリティを追及することでこのような絵になるのだろうか。物の再現力が素晴らしい。 具象を通して見たアメリカの原風景は、ひそかで濃密な静かさに満ちている。素描や水彩などの習作から完成作に至るプロセスに焦点が当てられている。描かれているものは画家の私的な想いや記憶に彩られるものばかりだ。心に響いたもの自然の中の普遍の心理や精神なのだろう。幸せな一生というべきだろう。合掌。 ( 2009/02/01 )
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