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世のうちそと

 宗達と光琳

宗達と光琳

華麗な美の系譜
光琳の前には宗達がいた

 大琳派展が2008年10月7日から11月16日まで東京国立博物館平成館で開かれた。金曜日や土・日曜日、祝日は開館時間を延長している。にもかかわらず押すな押すなの混み合いに館内は熱気でむんむん、上着を脱ぐ人もいる。襖絵や屏風絵は人の頭越しでも鑑賞できるが、茶碗や硯箱などの小物についてはあきらめざるをえない。そこで光琳と宗達のふたりの大物に限って感想を述べる。

「宗達と光琳」という企画だけでも人はやってきたのではないか。それほどに両人とも魅力的である。

 俵屋宗達が活躍したのは、江戸時代初期の京都。富裕な町衆らによって、伝統的な王朝文化の復興がはかられていた。宗達もまた京都の上層町衆の出身で絵屋「俵屋」の工房を主宰していた。が、生没年は不詳で、その生涯の大半は謎に包まれている。

画業の後半期に障壁画の制作に取り組む。金銀泥と極彩色によって表現された画面は、明るさとおおらかさに満ちている。彼の精神のあり方が絵画の新様式を確立したようにさえ思われた。伝としての俵屋宗達の作品が多数出品されている。

実は、宗達は一人だけとはかぎらなかったのではないか。工房主宰者として多忙を極める本人の他に仲間や弟子が制作に加わり、アイデアやコラボレーションで多様な作品を提供していたのではなかったか。

本人は法橋位にまでのぼりつめた。ただ、仲間にも優秀な職人とがいて、俵屋として仕事を残していったために、人物がダブってしまい肝心の本人の生没年もわからなくなってしまったという考え方もできる。

職能集団としての俵屋一家が美術の新しい価値を創造し、その精神を後世に与えたという評価のことを考えると誰の仕事かということは個人名はそれほど重要ではないのかもしれない。

 俵屋の活躍から、百年を経たころ登場したのが尾形光琳である。彼の生没年ははっきりしている。1658年生まれである。その弟尾形乾山もまた京都を代表する呉服商「雁金屋」の次男・三男として京都に生まれた。

今年は光琳の生誕350年。彼は女性遍歴と放蕩生活を重ねた生活を送った。派手で社交的な人がなぜ緻密な絵を残すことができたのか、不思議といえばこれも不思議である。光琳は莫大な遺産を使い果たすと絵画などの制作で生計を立てる羽目になる。彼もまた画家の位である法橋を得ている。

光琳は江戸に下り大名家にも仕えたが、武家社会に馴染めず京都に舞い戻っている。身過ぎ世過ぎのために絵筆を握ったにすぎないのか。

 光琳の名前は在世中よりブランド名のように使われ、特に小袖のデザインでは当時の流行となっていた。ただそれは光琳の名をかたっただけのことで、小袖の模様を専門とする絵師たちが、光琳の図案をもとに作り出したものだった。

それは小袖に限らず、団扇や焼物、蒔絵の器物などにも取り入れられた。光琳の名声は、こうした光琳意匠の創始者として知られていると言って良い。これもまた本人の意思とは別に作品は一人歩きをした。

 屏風絵などの大きな作品は本人の手になるものであろう。これもまた実に感嘆する。芸術家には遊びや浪費がエネルギーとなって反映されるのだ。光琳は宗達の影響を多く受けている。宗達と光琳、両人に共通するのは緻密さと簡潔さ、クローズアップの美しさ、みずみずしさの表現、大胆な構図といったところか。

ただ宗達は先に生まれている。光琳は宗達の後の世代にいる。宗達こそ稀代の天才であったというべきだろう。おそらく遊び人だったと思いたい。

 光琳が没して百年後には酒井抱一により光琳百年忌が営まれた。琳派の系譜をたずねるときその命脈をさかのぼっていくと本来は宗達ということになるはず。だが、宗達の影は薄い。真の天才は「故郷に入れられない」ということでもあるか。

( 2008/11/15 )

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