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世のうちそと

 佐原ばやしが聞こえる町

佐原ばやしが聞こえる町
江戸にタイムスリップ

江戸まさりと称される佐原の大祭は7月と10月の年2回行われ、街は活気づく。約300年続いている行事で、国の重要無形民族文化財に指定されている。山車は勇壮豪華だ。加えて、哀調漂う佐原ばやしの音が街中に響き渡る。

 佐原が栄えたのは、江戸の中期のこと。物資を舟で運ぶルートが確立したためである。鹿島灘に口を開く銚子から利根川をさかのぼり、支流の小野川の支流口沿いに発達したのが佐原である。水の街は江戸への物資が集積される町だったのである。

 佐原は小江戸と呼ばれるように家々の街並みに江戸の風情が残っている。その佐原に電車で行くためにはJR千葉駅よりJR成田線普通列車で約1時間かかる。駅舎を出るとすぐ地面に方向別に歩数が記されている。東京まで何万歩といったように。ここは伊能忠敬の故郷なのだ。彼の旧宅や記念館、伊能家の本家17代目が経営するコーヒー店と忠敬の遺産というべきものが残っている。

北総台地の北縁より湧き出す柔らかな水を使っての酒作りも盛んだ。小さな町なのに地酒の醸造販売店が4軒ある。水郷といえばうなぎ、300年の伝統を誇る老舗ではコクのあるタレが自慢だ。そばなら水郷さわら自慢のそば、創業200年以上という小堀屋本店の「黒切りそば」は日高昆布を使った秘伝の変わりそばだ。これを県の有形文化財の指定を受けている蔵造りの店内で食すれば、江戸時代にタイムスリップした気分になる。
すずめ焼きは水郷名物の佃煮「伊太郎」は築地に卸しているという。漬け物「忠敬漬」は昆布入りのてっぽう漬だ。さつまいもを個性あふれる味覚に仕上げたのが芋じまん。米どころ佐原の純米を使って一枚一枚焼き上げたせんべいは地元の醤油とあいまって絶妙な味に仕上がっている。ほかにも饅頭、カステラ、団子、芋アイス。こうしたものが佐原の華やぎに一役買っている。

町を歩いて行くと、かつて「江戸まさり」とまでうたわれた名残が散見する。舟運で栄えた昔のにぎわいが今もって偲ぶことができる。瓦屋根が陽の光に輝く古い商家の街並みと風に揺られる川沿いの柳の風情が水郷の情緒を醸し出している。平成8年には、関東で初めての国指定「重要伝統的建造物群保存地区」に選ばれた。

 交易の集散地として発達した。日高昆布も江戸との交流も水が結んだ縁である。そうした土地柄だったからこそ伊能忠敬といった型破りの冒険家も出たのであろう。彼は日本全国を測量して地図を作った人として有名だ。55歳から17年間で地球一周分と同じ約35000キロを踏破した。忠敬は造り酒屋を経営していたが、隠居と同時に家督を譲り、日本行脚の旅に出た。そしてわが国最初の実測日本地図をつくりあげたのだ。

 街をそぞろ歩いていてもっとも「江戸風」が残っているものを発見した。言葉である。早口のちゃきちゃきの江戸言葉が未だに残っている。イントネーションにそれを見いだすことができる。語尾が下がるのである。特定の地域に限って特有の言語的風貌というものがある。そこに住む人々の気風を伝えるものだ。佐原言語にも言語保存地区の称号を与えても良いのではと感じたほどだった。

( 2008/11/21 )

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