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世のうちそと

 向井潤吉アトリエ館にて

向井潤吉アトリエ館にて
茅葺き家の叫びが聞こえる

向井潤吉アトリエ館の世田谷美術館分館をめざす。行き着くにははなかなか大変。駒澤大学前駅から結構歩かなければならない。向井潤吉の自宅兼アトリエを改装したものだ。普通の家に入るように館内に入ると右手に一服場所がある。自由にお茶を飲んでビデオを鑑賞できる。温かいムードだ。

アトリエは蔵を移築したもの。太い木材と白壁に作品が映える。入ってすぐにイーゼルや絵の具のついたパレットなど遺愛の品が生前のままにある。この画家は、93歳で他界するまで、各地を旅しながら古い民家と周辺の自然を見事に捉らえた絵を描き続けた。追い求めたものは失われようとした日本の原風景でもある民家である。じっと見ているととても癒される。

向井は戦争の不安な時代に自分自身も方向を見失っていた。民家は都会の犠牲となって消えゆく運命にあった。そのフォルムの美しさ、例え絵の中であっても残しておけば何かの役に立つ。そう考えての旅行脚だった。そこには名もない人々の平かな日々の営みがあった。空、山、湖といった風景を背景として木々の色彩が一つに溶け合う美しさを追い求めた。自然の中の一刻の美である。

棄てられて人を失った家は荒れる。そうした家の軒数がまとまると、過疎の村になる。それは悲しいことだ。

武蔵野の台地は、さまざまな面を見せる丘陵地だ。江戸時代から新田開発がなされ雑木林となり田園風景が広がった。それは武蔵野と呼ばれ、象徴ともなった。国木田独歩、徳富蘆花といった文学者らが絶賛した。ただ、昭和十年から昭和六十年代の武蔵野の変貌は著しく、画家向井は、川越、東松山、奥多摩へと広げ画題を求めざるを得なかった。こんなにまでして、土地の上に建つ農家民家を描くことに没頭したのはなぜだろうか。ことに早春の情景は、自然に寄り添う暮らしを情趣豊かに描き出し傑作ぞろいである。

民家に理想の美を見たのはなぜか。写真と比較してみるとその違いがはっきりする。絵の方が色彩の調和が勝り、まるで呼吸をしているかのように見える。画家の腕というべきだろう。画家の眼で見た対象とカメラが捉えたものは、同じものでも受ける印象は違う。

民家は庶民が住む住居である。このことからいえば、縄文時代の掘っ立て式までさかのぼることが出来よう。民家は町屋と農家に分かれる。共通するのは地場にある素材や技術を使って建てられたものと定義できる。画家は農家を描いた。

江戸時代後期になると地方での類型化が進んだ。岐阜県白川郷の合掌造り、岩手県の曲屋など、地方色ある民家の形式がつくりだされた。それぞれの風土に即した生活からにじみ出た、それぞれの美しさはある。

ただ画家はひたすらといってよいほど、あまり観光などに縁のない、本当に一家家族がひとつ屋根の下にすみ、団欒の声が今にも聞こえそうな暖かみのある風景を好んだ。そうした安穏な生活というものが、戦争や敗戦後の開発で場を奪われていった。

すでに主を失った茅葺き家はひとりポツネンと取り残されている。幸せだった時間を返せ、との叫び声が聞こえるような気がする。

( 2008/07/01 )

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