トプカプ宮殿の至宝展 世界の中心は一つではない
9月24日の振替休日、上野の東京都美術館で8月1日から開かれていたトルコ・イスタンブール歴史紀行「トプカピ宮殿の至宝展」へ出かけた。東京展の最終日だった。
小雨模様の中、客足も最後まで落ちていない。当日入場料1400円は高い気がするが、スルタンの権力とハレムの栄華を一目見ようと、善男善女がおしかけたのだ。
「オスマン帝国と時代を彩った女性たち」という副題も何か思わせ振りである。
オスマン帝国のことは学校でも学んだ。モンゴル高原北方をふるさととする。南下西進を続けたトルコ民族の一派が、13世紀末にアナトリア高原にオスマン帝国を創始した。
専制君主スルタンは軍隊と宗教をもって世界を統治し交易によって莫大な富を背景にアジア、アフリカ、ヨーロッパのその力を示した。その豪華さで敵や民衆を圧倒したであろう展示がなされている。今回の展示された140点は大半が日本初公開という。
帝国政治の国政の中心にあったのがトプカプ宮殿であった。同時にスルタンが居住する私的空間でもあった。生活すべてが豪華な装飾に囲まれていた。このことは理解できるが、装飾品の陳列だけでは何かもの足りない。この類のものは現地の宮殿のなかで見なくては実感は湧かない。 展示の究め付けは特別出品初公開の金のゆりかご[18世紀]。トプカプ宮殿博物館の宝物の中でも秘蔵品の一つ。ゆりかごはもう一点出品されており、同じイスタンブールで18世紀の品、長さ、幅も変わらないのに、片や胡桃材料と貝、片や金、ダイヤモンド、エメラルド、ルピー、トルマリンをふんだんにちりばめて、まさしく「金のゆりかご」である。
見る人たちからも比較して「ゼンゼン違う」といった声が漏れる。これは秋篠宮家に親王が誕生したお祝いとして、トルコ政府の好意による出展であるという。さてはトルコ・イスラム美術博物館にはまだまだ多くの秘蔵品があるはず。出し惜しみを感じた。
オルハン・パムクという作家はご存知だろうか。1952年イスタンブール生まれ。2006年ノーベル文学賞を受賞、トルコ人として初めての快挙である。
その受賞講演に耳を傾けると、トルコ人は世界の中心にいない感じを訴える。中心はアメリカやヨーロッパであり、自分の住む国は辺境にいると感じる。かつての帝国の自負を持つ国の人が現在はそう思うのである。
そして、人間は世界のどこでも似ているという信念を持つに至る。世界にはひとつの中心があるとの考えをあまりにも重要視することはないのだ。そう思って再見するとまたあらたな発見もある。
( 2007/10/01 )
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