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世のうちそと

 「瀬戸内寂聴展」を見て 生きるとは自分を愛すること

 JR徳島駅から徒歩15分のところに徳島県立文学書道館があった。文化勲章受章記念と銘打った「瀬戸内寂聴展」が開かれていた。
 
 展覧会は1期(8月11日〜9月9日)と2期(9月11日〜9月30日)に分けての展示である。1期の方をたまたま見ての感想。

 この作家が徳島生まれであることを始めて知った。常設展示室では一壁全面に出版された作品が一冊ずつ小箱に収納されて壮観である。その数400冊。半世紀にわたりひたすら小説を書き続けてきた成果がそこにあった。

 「生きることは愛すること」と銘打たれたコピーは、昨年11月、文化勲章受章時に彼女が語ったもの。「世の中をよくするとか、戦争をしないとか、その根底には愛がある。それを書くのが小説」だと語る。

 切に生きることを自らに厳しく課す一方、情感あふれる豊かな言葉で、多くの人に生きる喜びを伝えてきた。34年前には中尊寺で黒髪をばっさり切って出家、岩手天台寺で住職を務めた。いつも潔い生き方だ。パネルや映像に納められた彼女を見てそう思った。

 かつて友人の文芸評論家が「男にもてなくなって、更年期も重なって得度したのさ」と説明した。特別ファンでもない私は「そんなものか」と少し軽蔑したのを思い出した。無責任な活字や中傷誹謗は有名人にはついてまわる。

 夫とこどものある身で恋人をつくり、夫の家を飛び出したこと、娘を夫の許におきっぱなしにして他人に育ててもらったこと、後に妻子ある男と知り合い、恋愛関係になり、公然と彼との仲を続けたこと。最初の夫との出会いがなければ作家として誕生できなかったとも書いている。

 恥じない、後悔しない、自分を責めない、不貞な悪女、道徳の枠からはじけだされた女性。そういった印象で世間は見る。自分のことしか考えない人物が想定されやすい。

 彼女は私小説作家ではないと、自分で言う。だから、作品世界は現実と虚構をないまぜにして、別のもう一つの小説世界をつくる。それだけに内面の真実が確かになるとも言える。

 会場では「美への渇仰と憧憬に貫かれてきた」と大書の紙が張られていた。飾られている美術品は、藤原新也、荒川修作、斉藤真一、片岡球子、シャガール、ヘンリー・ミラー、藤田嗣治、熊谷守一、アスペンコロ、ダーカンジェロ、高山辰雄、デュラス、横尾忠則、岡本太郎、四谷シモン、加山又造、榊莫山、池大雅等。

 小品ながらこの作家たちの共通項である、夢を無限に広げる爽やかさ、高質さ、清潔感、いたわりとやさしさに満ちた作品ばかり。人は耐えるものといった思いが伝わってくる。

「どれだけ面白い本を読み、どれだけ美しい絵を見て、どれだけ素晴らしい人々と出会ったか。これが私たち人間にとっての、最後の財産となるのです」との語りに共鳴した。

 もっと充実したいから出家したのだ、時代の先を行く、彼女らしい生き方だったのだ。そこに今の女性たちも惹かれる秘密であろう。

 女の愛の姿を描き、深奥な内面を捉らえた作品は、ひとりでも生きられるという強いメッセージがある。墓前に文化勲章受章を報告する姿に、慈悲、利他の心、他人の幸せも考えながら生きることの意味を深く刻んだ。

( 2007/09/15 )

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