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 花屋消えて

門前の花屋には季節によっていろいろな色彩が乱舞していた。花のはじまりはタネ。タネは大地に根ざして成長していく。その女性は花々に包まれ商いをしていた。三代目だ。初代は戦後すぐのことらしい。商売の始まりは金魚を売っていた。戦後の混乱も落ち着いて季節の花に切り替えた。嫁に来て姑について露天をはじめた。姑が他界し、後を継いだ、近所の人にも顔馴染みとなり、花の知識も増えて商売としてはまずまず。
朝早く隣り町からバンに花材を積み込んで寺内にやってくる。夫婦してダンボールから取り出しセットしていく。通勤者が店前を通る時分には、すでにスタンバイO.K.となる。パチンコ店が開く時分には夫の姿は消える。後は妻の出番。ヒマができると好きな編み物をする。そうして元気に75まで過ごして来た。
ところで今年の夏の暑さは身に堪えた。体力気力の衰えを実感した。引退を決意する。後を継ぐ者はない。商いはこの街から消えた。色と香が消えた街の風情はどことなく寂しい。
師走になって元花屋の女主人から挨拶の手紙受け取った。そこには自分の半生の記が手際よく綴られていて。花屋は辞めたが、元気なので働きに出ている旨が記されていた。近年は働き方改革とかが叫ばれている。生きものはカラダが効く間は働くにしかない。動物とは文字通り動く物であり、それにニンベンが付いて「働く」なのである。本来は定年制や年齢で区分けすることはないのである。必要なんて鼻からないのである。
手紙には、こうも書いていた。「週刊誌のカメラマンが花屋最期の日を取材して載せてくれるそうです」とあった。うれしそうである。それで毎週コンビニに行きグラビアをチェックしている。師走になっても載らない。 
せめて本コラムに記すことで門前の花屋のことを印しておきたい。誠にささやかながら。

( 2018/12/15 )

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